■事件簿No.7 不法投棄産廃:処理阻む費用 1カ所数十億〜数百億円。国も地方も及び腰
不法投棄された産業廃棄物の処理が遅れている。全国150カ所以上の処理対象のうち、産業廃棄物特別措置法(産廃特措法)による処理は10カ所。1カ所数十億〜数百億円の処理費を嫌い国も自治体も処理に消極的だ。
◆甘かった見積もり
「(不法投棄という)負の遺産を一掃する」。03年、S環境相(当時)は国会でこう宣言した。環境省が同年6月、10年間の時限立法で産廃特措法を作った時のことだ。同省は当時、法の適用で処理する不法投棄を150〜200カ所と推定。処理費を計900億〜1000億円と見込んだ。
それから5年。同法での処理が決まったのは10カ所だけだ。一方で費用の合計はすでに約1160億円と、「10年分」を超えた。環境省は「一定の成果はあった。(処理件数や費用が)大きな見込み違いとは考えていない」とするが、その構想は事実上破綻(はたん)していると言わざるを得ない。
実は自治体や、ごみ問題に取り組む住民団体は、法制定当時から「無理がある」と冷ややかだった。同省の費用見積もりがあまりに少なかったからだ。
例えば、産廃88万立方メートルが捨てられたS元環境相の地元、青森・岩手県境。産廃を全量撤去する計画で、費用は655億円と巨額だ。産廃をその場に残し、汚水拡散を防ぐ工事ならもっと安く、特措法適用が決まった10カ所のうち8カ所はこの方式だが、それでも計約280億円かかる。
◆半分は自治体負担
高額な処理費用の半分強は、特措法の適用を受けても自治体の負担になる。さらに同法の適用は、不法投棄を許した自治体の責任を検証することなどが条件だ。このため自治体は適用の申請に消極的になりがちといわれる。
こんな事例がある。三重県四日市市の産廃処分場で05年6月、日本最大級の不法投棄が発覚した。埋め立てが許可されていた産廃は132万立方メートルだが、実際の量は約286万立方メートル。地下水からジクロロエチレンやベンゼンなど、基準を超える有害物質が検出された。県は「特措法適用を想定する」と環境省に届けた。
発覚に先立つ04年5月、県の担当者は「硫酸ピッチを入れたドラム缶数十本を処分場に埋めた」との証言を自動車解体業者から得た。四日市大のK教授(環境物理学)が、情報公開請求で入手した県の文書にその記載がある。事実なら硫酸ピッチはいずれドラム缶を破り、さらに地下水を汚染するとみられる。
だが3年たつ今も、県は特措法申請を正式表明していない。今年末以降、産廃を土で覆って雨水の浸透を防ぐだけの見通しだ。県の専門会議が「地下水汚染を防げる」と答申した工法で、費用は数億円で済むとみられる。
硫酸ピッチが存在すれば、この工法では汚染を防げない。しかし県はボーリング調査をしたうえで、「証言の信ぴょう性は薄い」とピッチはないとの立場だ。専門会議の答申も、ピッチの件は考慮外だ。
一方、K教授は「県は証言の詳しい調査をしていない。不作為責任を追及されたくないのだろう」と批判する。もしピッチがあれば対策費は上がり、法申請の必要も出るとみられる。
◆国が難色か
不法投棄の周辺住民は「何も悪くないのに産廃を押しつけられた」と全量撤去・原状回復を求める。だが撤去は費用が高く、国も自治体も避けたがる。撤去の必要性を判断する明確な基準はなく、撤去に踏み切る理由も、せずに済ます理由も不透明なことが多い。
04年3月、岐阜市で約75万立方メートルの不法投棄が発覚した。水道水源から約3キロ。地下水汚染を恐れた市は06年3月に「将来的な支障がないとはいえない」と、汚染源とならないコンクリートを除いた産廃約50万立方メートルを撤去する方針を発表。環境省と、法適用の相談を始めた。費用は約180億円の見通しだった。
しかし今年3月、同省の同意を得て法適用が決まった対策は、約25万立方メートルの撤去と、汚水の拡散防止工事にとどまった。費用は約100億円に下方修正された。
市は「(対策が必要な)支障の内容を明確にするよう環境省に指示された」と話し、撤去をダイオキシン発生のおそれのある産廃に絞ったと説明する。
滋賀県栗東市の産廃処分場のケースでは00年、高濃度の硫化水素が検出された。許可量の1・8倍、約71万立方メートルの産廃が投棄されていた。県の対策委員会は今年4月、多数決で全量撤去を推薦する報告書を出した。
18人の委員中8人が「全量撤去以外では地下水汚染の深刻化は不可避」と表明したからだ。産廃を遮水壁で囲む汚水拡散防止工事を推した委員7人も「経済などから遮水壁が合理的」とする一方で、「全量撤去が理想的」と報告書に記した。K知事と住民の意見交換会でも、全量撤去の希望が圧倒的だった。
だが、全量撤去の費用は約240億円。遮水壁なら約50億円だ。知事は5月、遮水壁の採用を表明し、今後は法適用を申請する予定だ。だが知事は会見で「国の補助を得られる仕組みを提案すべきだ」と話し、費用の高い撤去は国が認めない実情を示唆した。
◇産廃出す業界が負担を
ごみ問題に詳しく、滋賀県の対策委員も務めたK弁護士は「財政負担が重い自治体が、法の適用や全量撤去に腰が引けるのは分かっていた。不法投棄は本来、税金でなく、投棄した業者の費用で処理すべきものだ。(業者の倒産などに備え)産廃を排出する産業界に費用を強制的に出させる仕組みが必要だ」と話している。
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